取り組み概要【取り組み背景】・2021年より、会社全体で本気のダイバーシティ推進を開始・ダイバーシティ推進の一丁目一番地として、女性活躍推進に注力・女性管理職100名の登用を目指し、多様な人材がリーダーシップを発揮できる組織風土づくりを推進中【解決したい課題】・多くの管理職登用候補者が、”管理職になりたくない問題”を抱えており、昇進意向に課題あり・長時間労働を前提とした固定化された管理職イメージが払拭できていないこと、「完璧・バリバリ働くリーダー像」がもたらす「自分には無理」という自信の無さ等が影響【結果】・「チームで成果をあげる自信」が4ポイント(10ポイントもたらす中)上昇・これからのマネジメントスキルの獲得と実践に基づく手ごたえにより、管理職への昇進意向に変化をもたらす・受講者自ら、後輩へ受講を勧めるなど、将来の管理職候補者拡大にも貢献実施の背景 お客様の半数は女性。まずは意思決定の場に多様な視点を取り入れたい 古賀:本日はマツダ様の女性活躍推進の取り組みについてお伺いします。まずは御社の事業内容と、それに紐づく組織風土について教えてください。 山本:当社は自動車を製造・販売する製造業として、男性社会が長く続いていました。意思決定の場に女性が入る割合が現在も少なく、グローバル展開する中でも特に、日本の女性活躍の機会に課題がありました。 古賀:組織の女性比率は今、どのくらいですか? 山本:単体では従業員数24,000人のうち、女性比率は10.7%です。ただし、女性管理職(幹部社員)となると、4.8%に留まっているのが実情です。女性従業員の比率はここ数年は横ばいですが、「2025年度末までに女性管理職を100人にする」という目標を掲げ、様々な取り組みを行い少しずつ上昇傾向にあります。 古賀:女性の管理職比率が徐々にでも増えていくと、多様な人が働きやすい環境に近づいていきますね。 山本:私は入社以来、ずっと開発一筋でしたが、開発部門はさらに女性比率が少ないので、ジェンダーギャップを強く感じ、意見が言いづらい面はありました。 しかし、お客様の半数は女性なので、多くの女性が抱く固有の意見を、組織内でしっかりと伝える必要があります。 私たちのお客様は、国籍・年齢・障害・SOGI・経験・価値観等々、多様性に富んでおり、男女の区分けだけで語られるものではないとの前提の下、まずは女性の活躍を通して、ダイバーシティを促進していき、誰もが取り残されることのない働きやすい組織風土を実現していきたいと考えています。 古賀:まずはジェンダーギャップを解消していくことで、より意見の伝えやすい組織を目指しているのですね。風土の観点でも、意見の言いづらさが関係していたのでしょうか。 山本:「誰もを納得させる完璧な意見を持って行かないと、突破できない」というような組織風土も、意見を言いづらかった一因だったと思います。 古賀:人の命を預かる製品をつくるという事業特性から、完璧を求める組織風土に繋がっている部分もあったのでしょうか? 江畑:そうですね。もちろん、安全面だけではなく、品質などの面では手を抜くことはできません。すべてにおいて100%を求める風土はあるように思います。 古賀:その意味では、開発部門を長く経験された山本さんが今、ダイバーシティ推進に関わっているというのは大事な視点が加わっているのだと思います。 女性活躍を通じて、ダイバーシティを促進し、誰もが取り残されることのない働きやすい組織風土を実現していきたい(山本様)女性活躍推進の流れ 女性初の人事本部長就任や社長交代を機に加速 古賀:御社のこれまでの女性活躍推進の流れや強化することになったきっかけについて教えていただけますか? 江畑:この分野に関心が出始めたのは、やはり1986年施行の男女雇用機会均等法があると思います。しかし、あくまでもコンプライアンス的な側面での取り組みに留まっていました。 90年代初頭のバブル崩壊とグローバルでの熾烈な企業間競争により当社は長く不況に喘ぐこととなり、2001年には雇用に関する苦渋の判断を行うこととなります。 その後、男女に関わらず一人ひとりの活躍を引き出さなければならないとの危機感から、それまで実質的に女性と男性を区別しているかのような採用区分(一般職と総合職)を一つに統合し、能力と経験をより重視した「キャリア採用」の強化、職務主義をベースとした「人事制度」の変更等の取り組みを進め、性差ではなく実力・能力重視の人事諸制度へと移行してきました。 古賀:制度面において、さまざまに取り組みをされてきたのですね。 江畑:しかしながら人事諸制度を変えただけでは、それを運用するマネジメント及び女性のマインドが劇的に変わることはありませんでした。 そして今日、2010年代後半より自動車業界は、100年に一度の変革期と言われるようなビジネス構造の大変革が起こり、生き残りをかけて“一人ひとりの活躍最大化”と様々なステークホルダーとの“共創”、そしてそこから生み出される“価値創造”を追求していかなければならない状況下にいます。 このような経営課題の下、2021年4月、現在は執行役員兼CHRO(最高人事責任者)の竹内都美子が女性初の人事本部長に就任し、“最もメジャーなマイノリテイーの活躍”を合言葉に、経営課題に呼応すべくダイバーシティの推進が大きく動き出しました。 古賀:社内で女性活躍推進が必要だという納得感はどのように広がったのでしょうか? 江畑:竹内が人事本部に着任する頃の話ですが、広島大学ダイバーシティ研究センターに開発領域社員のキャリア志向についてアンケートとインタビュー調査にご協力いただきました。 その結果を受け、人事本部内で本格始動した女性活躍推進プロジェクトで社内男女500人ずつに昇進意欲について聞くと、男女間で大きなギャップがありました。この結果を経営会議でレポートしたところ「これは手を打たないといけない」となり、あの時、意識のスイッチが入ったように思います。 しかしながら、社内では、現状に対する危機感には、まだまだ温度差があるようにも感じています。 古賀:まだまだ社内の意識の温度差はあるものの、明確な数字が出たことで、変えていかないといけないという意識につながったのですね。「女性管理職100人」という目標も、この時、生まれたのでしょうか? 江畑:いえ、目標は段階的に引き上げてきましたが、社長が変わった2023年からそれまで80人としていた目標を、さらに加速させようと100人にしました。その直後にダイバーシティ推進グループができ、多くの社員が「会社が本気になった」という感覚を持ちました。さらに、2024年4月にパーパスの実現に向けて組織風土改革推進部ができ、創造性のある組織風土への変革取り組みが本格化し始めました。 古賀:竹内さんが人事本部長になられたことが1つの転換点となり、社長が変わられたことで目標が強化された。さらにダイバーシティ推進グループが生まれ、組織風土改革推進部が生まれ、どんどん階段を上がっていくイメージを持ちました。 江畑:そうですね。女性活躍推進法などの法律が背中を押し、社内の気運が高まることはあります。ただ、それだけで女性が活躍できるわけではありません。義務だからやるのではなく、自社に必要だからやるのだという腹落ちは大事だなと思っています。 既にお話ししたように2000年代初頭に、性差に関わらず実力・能力重視の人事諸制度を変更しましたが、その後、20年経った今日において、それを運用する“人”のマインドを変え、根付かせていく活動が始まったところです。 制度を変えるだけでは組織は変わらない、運用する“人”のマインドを変えていく(江畑様)研修への期待 固定された管理職像を覆したい。NOKIOOに期待したこと 古賀:御社では「女性管理職100人」という目標に向け、2024年2月、NOKIOOとともに4ヵ月にわたる「女性リーダー候補育成プログラム」を開始されました。企画の背景や期待についてお聞かせください。 江畑:女性活躍は当社だけではない社会の課題であったため、社外の声を聞き、長期的に伴走してもらう方が良いと考えました。そこで過去に単発研修で接点のあった数社に相談し、当社の状況を聞いたうえで「マツダ様の強みを活かしましょう!」と言ってくれたNOKIOOに決めました。あと、フットワークの軽さも決め手でした。 古賀:嬉しいお声です。私たちは目的志向で行動することを心掛けていますので、チームの誰でもクイックに対応できるようにというのは意識しています。研修への期待については、いかがでしょうか? 山本:管理職のイメージを覆してほしいと思いました。社内ではまだまだ「昭和の働き方」をする管理職もいて、管理職像が固定されてしまっていたからです。研修で長時間労働に依存しない仕事スキルやチームで成果を出すマネジメントスキルを学ぶことで、「私にもできるかも」と認識が変わることを期待しました。 古賀:マインド変化を促すのは、社内だけでは難しいと感じられたのですね。研修対象者となる方への声掛けに当たっては、研修へ参加することが幹部登用への合意ではないと伝えたことは大きなポイントだったと思いますが、いかがでしたか。 山本:はい。管理職研修のような名称は使わず、「変化する時代のマネジメント・スキル研修」としました。というのも、研修前に社内で対象者へインタビューしたところ「幹部社員にはなりたくない」という声が多く聞かれました。ただ、このような研修があると紹介すると、受けたいという意向は高かったんです。 古賀:スキルを学ぶ場として抵抗感なく受け入れてくださったのですね。実際に研修を受けた方のアンケートでは「マネジメントはセンスではなくスキルなんだ」というお声があり、認識の変化が伺えました。 参考)プログラム概要▼期間・4か月間にわたり、計6回の研修を実施 ▼受講対象者・昇進意向の有無にかかわらず、登用候補として期待されている方 ▼カリキュラム内容・チームで成果をあげる体系的なスキルの習得・実践のサポート・受講者の上司向け研修も実施し・断片的な知識インプットにならない学習設計 ∟オリエンテーションやリフレクション、実務での実践を含め、トータルで効果を生み出す企画・構成・学習者同士のコミュニティ機能 ∟研修をきっかけに部署を越えた受講者の連携づくりへNOKIOOが提唱する「チームで成果を出す」ためのマネジメントスキル研修後の変化・効果 昇進意向が大幅アップ。幹部登用される女性も毎月誕生 古賀:受講者の変化について、お2人はどんなところで実感されましたか? 山本:受講者アンケートではステップアップ(幹部への昇進)についての気持ちは受講前の4.3点から受講後は7.1点※へ大きく上がり、受講者の半数以上の方が幹部社員にチャレンジする方向に変わっています。そして実際に、幹部登用される方も出てきています。※「ステップアップに挑戦したいと思っている」状態を10点として点数化 古賀:大きな変化ですね。研修で「一人でやり切る」仕事スタイルから「チームで成果を出す」スタイルへの意識転換ができ、「これなら私にもできるかもしれない」という手応えにつながったのではないでしょうか。 江畑:おっしゃる通りです。受講者からは「研修のあのセッションで学んだことを今、試しています」とか「これまで幹部の打診があっても断る理由ばかり考えていたけれど、幹部社員にチャレンジします!」という声が聞けて、本当にやってよかったなと感じました。 古賀:今回、職場での上司による女性幹部育成を後押しするため、受講者の上司向けプログラムも行いました。ご反応はどうでしたか? 山本:上司自身も気づきを色々と得てもらえたようです。「良かれと思ってしていた配慮にもバイアスがかかっていたことに気付いた」「対話だと思っていたことが、全然違った。もっと話をしなくては」といった声が聞かれました。 古賀:上司の方も多様な人材の育成やマネジメントに試行錯誤されていることを想定し企画をしたため、大変嬉しいです。受講者を中心に社内で良い流れが広がるといいですね。 山本:ええ、もう、受講者が周りの方にものすごく良い影響を与えていると感じます。たとえば、研修第2期の募集を始めると、第1期の受講生たちが「この研修はすごく良かったから、絶対受けた方がいいよ」と周りに自発的に勧めてくれていたりします。 古賀:研修では「一人で抱え込まず、周囲と連携するスキル」を学びますが、まさに受講者一人ひとりから周囲の方へのバトンがわたっているのですね。 取り組みのポイント 半歩踏み出すだけでいい。受講者の小さな自信を高められたことがカギ 古賀:改めて、今回の取り組みの「要」となったものは何だったとお感じですか? 江畑:受講者の自信を高められたことだと思います。「自信がない」と口にしていた受講者から、受講後は「私にもできるかもしれない!」とのコメントを多く聞くようになりました。 古賀:自信というと「仕事で実績を上げてこそつくもの」とイメージされることが多いですが、江畑さんが今、表現された自信はそこまで大きなものではないでしょうか? 江畑:はい。自分がまずできることをやっていこう、と思えるくらいの小さな自信です。一歩じゃなくていい、半歩くらい踏み出せる感覚でいいと思っています。 山本:もう1つのポイントは実践形式で、全6回のプログラムを4ヵ月間にわたり継続的に実施できたことです。受講者同士の仲間意識ができ、部門内外に関わらず連携する機会につながっています。また、回を追うごとに言語化も上手になり、スキルアップしていることを実感できたと思います。 古賀:一緒に励ましあったり、困難を分かち合えたりする場づくりができたという意味でも、継続してやる意義があったのかなと思います。 担当者としての想い 社内外の人とのつながりが、女性活躍を進める原動力に 古賀:最後に、研修を企画、運営されたご担当のお2人に、女性活躍推進に対するご自身の気持ちの変化を伺えればと思います。 江畑:当初は役割としてやっていましたが、広島の産学官ダイバーシティ推進協議会に参加して他社の事例を聞いているうちに「マツダ、このままじゃ、まずいじゃん」と危機感を持ちました。これが自分の中での転機となりました。その後、NOKIOOを知って広島以外の企業の動きを知り、NOKIOOの研修で受講者の変化を実感し、徐々にこのテーマにのめりこんでいきました。 山本:私ももともと「女性活躍」という言葉がしっくり来ていませんでした。開発部門は人員規模が大きいにも関わらず、女性幹部は一人もいませんでした。女性の管理職登用を下支えする活動をしたいと思い、人事に異動してきました。 社内の女性社員の話を聞く中で、開発以外の部門でも悩んでいる女性が多いことを知りました。また、他社のダイバーシティ推進担当者と意見交換をする中で、何社か集まれば何か変えていけるのではという実感を持ち、「女性活躍」に対するマインドが変わってきたところです。 古賀:社内外のつながりが、気持ちの変化を促したのですね。組織を変革させるには深く理解し長く伴走することが大切ですので、NOKIOOも御社とパートナーとしての関係性を作らせていただいているのは大変嬉しいことです。私たちと一緒にやりたいと思ってもらえた理由があればお願いします。 江畑:ワンチーム感ですね。今では取引先というより、1つのチームのように感じています。一緒に女性活躍推進に向けて、取り組みを進めている感覚です。 山本:ですね!私たちが見ている景色を一緒に見ようとしてくれます。なので、暗雲が立ち込めたときも、打開するにはどうしたらよいか自分事として考えてくれます。 江畑:ダイバーシティ推進担当としての仕事には大きな壁がたくさんあると思うのですが、「やってみたいな」というワクワク感がわくんです。古賀:ありがとうございます。嬉しいキーワードをたくさんいただきました。新しい目標ができたときに「えっ、難しそう」ではなく、「大変かもしれないけれど、一緒にやっていけそう」と思っていただけているのかなと感じました。組織を良くしたいと考えている方たちに向け、マツダ様と一緒に発信を続けていけたらと思います。