取り組み概要【実施内容】・女性リーダー育成のため、オンラインスクール「スクラ」を導入し、毎年数名の女性社員が継続受講。・人事担当者自身も受講し、社内での理解促進と受講希望者へのサポートを実施。【背景・課題】・管理職層に占める女性比率が5%未満と低く、ダイバーシティ推進の観点から多様な視点を意思決定に取り入れる必要があった・育児と両立しながら管理職を担うロールモデルが社内に不足していた。【結果】・受講後のレポートで女性社員の昇進意欲が向上していることが確認され、キャリアを中期的に考えられる社員が増えた。・スクラ修了生同士で学びを共有する機会が生まれ、キャリアを考える場が増えた。・「自分の立場からでも景色を変えられる」という意識が芽生え、スクラでの成功体験が職場での発言や行動を促した。目次ダイバーシティ推進の重要性が叫ばれる昨今、「多様な視点を意思決定に反映させる土壌を築きたい」と考える企業は少なくありません。しかし、特に製造業においては、女性活躍推進が課題となっています。厚生労働省の令和5年度雇用均等基本調査によると、製造業における女性管理職割合(課長相当職以上)は8.5%にとどまり、全産業平均の12.7%と比較しても低い水準にあります。工作機械・小型プリンターメーカーのスター精密株式会社様は、その課題に真摯に向き合い、2022年より、オンラインスクール「スクラ」を女性リーダー育成プログラムとして導入し、毎年数名の女性社員が継続的に受講しています。導入の背景や社員の変化について、自らのスクラ受講体験も踏まえ、人事部でダイバーシティ推進を担当する村松様と鈴木様に伺いました。導入の背景 女性リーダー育成に社外の視点を。「学び続ける」文化がスクラ導入を後押し ーーー 本日は女性リーダー育成プログラム「スクラ」導入について、推進者であり受講経験者でもある村松さんと鈴木さんにお話を伺います。まずは、スター精密様と、お二人の自己紹介をお願いいたします。村松様: 当社は1950年創業、静岡県に本社を置く工作機械・小型プリンターメーカーです。グローバルニッチ戦略を掲げ、売上の8割以上を海外が占めています。私は新卒入社後、営業を経験し、現在は人事部で採用とダイバーシティ推進を担当しています。鈴木様: 私は中途入社3年目で、人事労務室にて多様で柔軟な働き方やダイバーシティを推進しています。ーーー まさにダイバーシティ推進の最前線を担っていらっしゃるお二人ですね。スクラとの最初の接点は2022年にお問い合わせをいただいたことでしたが、どのような背景があったのでしょうか?村松様: 2022年からの中期経営計画において、ダイバーシティ推進、特に女性活躍推進が重要課題となり、2030年までに女性管理職層比率10%というKPIが設定されたのが大きなきっかけでした。当社はグローバル展開を進める中で多様性は増しましたが、管理職層の女性比率は5%を下回っており、ダイバーシティの「一丁目一番地」として取り組む必要がありました。そこでまず、既存の女性社員へのヒアリングを実施しました。ーーーヒアリングを通じてどのような課題があり、スクラの導入を検討されたのでしょう?村松様:育児と両立しながら役職を担うロールモデルがいないことや、フルタイム残業ありきの管理職のイメージが課題として見えてきました。また、管理職候補となる30代の女性社員の多くが育児と仕事の両立という課題に直面しており、スクラの「ライフイベントや役割の変化に関係なく、持続的に成果を上げる女性人材を育てる」という趣旨が合致していました。鈴木様: 女性管理職が少ないことについて、「当社独自の問題なのか?」「当事者のマインドはどうなのか?」など、深い現状把握ができていませんでした。当時、社内では公募型の研修や越境学習の機会も少なかったので、まずはスクラを試してみようとなりました。ーーー 課題を探る中で、女性に特化したリーダー育成プログラムであり、多様な業界の方と共に学ぶ越境学習の場として、スクラを候補に挙げていただいたのですね。経営層の反応はいかがでしたか?鈴木様: 「まずは、トライアルでやってみよう」と、前向きに応援してくれました。当社には「みずから行動する」「学び続ける」「技術にこだわる」「集団としての価値を重視する」という4つの行動指針があります。その中でも「学び続ける」という指針に基づき、資格取得の奨励制度や報奨金、通信研修などの社員の学びを支援する制度があります。また、経営層自らも「学び続ける」ことの重要性を常に発信しており、社員の成長を後押しする姿勢が社内全体に浸透していることもよかったと考えています。 研修への期待 体系的な学びと共感できる仲間との出会いーーー スクラでは週1回2時間のクラスを半年間、全国から集まる多様な「同期」の仲間とともに学びます。スター精密様では2022年9月開講のスクラ7期から会社の全額負担プログラムとして導入いただき、2023年には村松さん、鈴木さんも受講してくださいました。実際にスクラを半年間、受講してみて、お二人はどのような点に魅力を感じましたか?村松様:実は私はロールモデル不在については、受講前はそこまで問題視していませんでした。しかし、スクラで意欲の高い仲間やマネジメントを経験した方、憧れの講師たちに出会い、これがロールモデルなのだと気づかされました。これまで外部のマネジメントスクールにも参加しましたが、スクラの「同期」たちは育児中の女性など属性が近い分、共感できる部分が多かったです。鈴木様: 私もロールモデルとの出会いは大きかったです。自分と属性が全く違う方だと「あの人は素敵だよね」で終わってしまうこともありますが、スクラでは自分より少し先のキャリアを歩む受講生に、仕事やキャリアについて気軽に相談できました。社内のリアルな関係性では躊躇して話せないことも、スクラの同期なら話せます。今も受講期を超えた社外のスクラ修了生との繋がりがありますが、キャリアを考える上で大きな影響を与えてくれています。もう1点魅力に感じたのは、チームで連携して仕事の成果を出すためのスキルが体系的に学べることです。「問いのデザイン」や「自分マネジメント(自己理解)」から始まり、周りに助けを求める「ヘルプシーキング」、その後、キャリアデザインやマネジメントへと段階的に進んでいく構成が非常に効果的だと思いました。以前参加した外部研修は、1日に大量の情報をインプット・アウトプットする必要がありましたが、スクラの講義は1回2時間半で事前学習の必要もないため、集中して臨めました。受講生同士のレポートから学びを深められたのも大きいです。自分が発信することで他者の助けにもなり、みんなで学び合う良さを実感できた越境学習でした。ーーー 体系的な学び、共感し学び合える仲間、そしてロールモデルとの出会い。スクラでさまざまな価値を実感されたのですね。 会社としての導入導入から定着へ。社内クチコミで広がるスクラの輪ーーー 社内でのスクラ導入後、対象者にはどのように声掛けをしていかれましたか? 受講希望者を募るうえで、工夫された点などがあればお聞かせください。村松様: 導入当初は「育休スクラ」(※)という名称だったこともあり、対象者は1期あたり2、3名という少人数でしたので、育休に入る社員に直接声を掛けていました。その後、人事部の私たちも受講したことで、よりリアルな情報を伝えられるようになりました。おかげさまで、大きな苦労もなく、スムーズに導入できたと思います。※2023年4月、オンラインスクール「育休スクラ」は「スクラ」へ発展的前進しましたスター精密様のスクラ導入の流れ2022年9月 スクラ7期より導入2023年2月 スクラ8期、人事部・村松様 受講 9月 スクラ9期、人事部・鈴木様 受講2024年2月 スクラ10期より社内公募で受講者を決定※2025年のスクラ開講は5月(第12期)と9月(第13期)を予定しています鈴木様: 9期からは育休中の社員全員にメールでスクラの概要を説明し、7期受講者の修了レポートやクチコミの要点を絞って紹介しました。そして、10期からは社内イントラネットで公募する形式に切り替えました。 ーーー 2022年9月開講のスクラ7期から継続的に参加いただき、社内ではスクラ修了生同士の繋がりも生まれているそうですね。具体的に、どのような交流があるのでしょうか?鈴木様: スクラ修了生たちが、これから受講を検討している社員に対して、OGとして積極的にアドバイスをするような関係性が生まれています。たとえば、先日は「公募を見て受講を迷っている社員がいる」と、スクラ9期で私と同期だったメンバーが繋いでくれました。その同期は育休中に受講していたため、仕事と両立しながら受講していた私の経験を話してほしいということで、ランチをしながらお話しをする機会をいただきました。ーーー素敵ですね。 普段は仕事上であまり関わりのない社員同士が、スクラ修了生として繋がって、体験談を伝えたり、不安を解消したりする動きが生まれているんですね。 受講者の変化 意識と行動の変化がチームを動かす。昇進意欲も向上ーーー スター精密様では女性リーダー育成プログラムとして導入後、10名の女性社員がスクラを受講されました。人事としてどのような手応えを感じていますか?村松様: 一番の手応えは、受講後のレポートで女性社員の昇進意欲が向上していることです。女性管理職層比率の向上というKPIに向けて、一定の成果だと感じています。また、スクラでは自己理解を深め、自律的にキャリアを歩くことを学ぶため、受講した社員からはキャリアを中期的に考えられるようになったという声も上がっています。当社は行動指針に「みずから行動する」を掲げ、自律型の組織を目指していますので、良い変化だと感じます。鈴木様: スクラを受講した社員は、チームを意識した行動が多くなったと感じます。修了生同士でご飯を食べる機会があると、職場の困りごとに対して「スクラで学んだ〇〇が活かせそうだね」という話が自然に出ます。今までは「自分は室長じゃないからできない」「マネージャー層の権限がないとできない」と思っていたのが、「自分の立場からでも景色を変えられる」という発想に変わったことを感じます。スクラで学んだ「半径5メートルから変えていく」という考え方が、受講生に強く響いていると感じています。ーーー そうなんですね!意識が変化したのは、なぜだと思われますか?鈴木様: 今までは「自分が発言しても何も変わらない」と思っていた社員が、スクラで自分の意見を発信する機会を得て、「自分の発言にも意味がある」という手応えを感じたことが大きいと思います。スクラでは発言を否定されることなく、「その発言、いいね」「グッドだよね」と肯定的に受け止めてもらう経験をしています。その成功体験が、職場での行動を促し、「実践してみたら楽しい」「みんなにもこの感覚を体験してもらいたい」という気持ちに繋がっているのだと思います。ーーースクラでの経験でアウトプットのハードルが下がったのですね。講師の言葉やスクラで学んだ考え方が社内でも共有され、共通言語が生まれていることを感じ、私たちも嬉しくなります。 今後に向けて 仕事を頑張りたい女性が報われるように ーーー 女性活躍推進に向けて、今後、スクラをどのように活用していきたいとお考えですか?村松様: 毎期、受講者が出て、スクラの輪が自然に広がっていくのが理想です。当社は社員数500名程度と比較的規模が小さく、社員同士の顔が見える関係なので、クチコミが広がりやすいという特徴があります。闇雲に受講者を増やすのではなく、現状の仕事の進め方やキャリアについて、何かしらのモヤモヤを抱えている社員が自発的に参加するような形を維持していきたいと考えています。鈴木様: 私は仕事を頑張りたい女性が報われるように、スクラを役立てていきたいです。女性で仕事が好きと言うと「バリキャリ」と思われがちで、周囲に話がしづらい雰囲気もあります。でも、そうではなく、仕事も家庭も諦めたくない、あれもこれも全部頑張りたいという人を応援したいです。スクラは人事として支援できる有効な策の一つだと思っています。私個人でも、社内で草の根的にスクラのクチコミを広めています。ーーー 嬉しいです。御社のように人事担当者様が自らスクラを受講し、その手応えを想いを乗せて社内に発信するからこそ、受講者が広がっていくのだと感じました。そして、スクラを通じて「自分にもできることがある」と実感した方が、職場で実践を積み重ねていくことで、少しずつ管理職への意向が高まり、のちに管理職として登用されることに繋がる。そんな中長期的な取り組みであると信じています。われわれも御社からの期待にしっかりと応えていきたいと思います。