取り組み概要背景・オーナー企業としてのトップダウン型経営により、意思決定のスピードや専門性は高かったものの、組織内の年齢・キャリアの多様化により“暗黙の了解”が通じにくくなっていた。・中堅リーダー層において、マネジメント経験や「チームで成果を上げる」視点の不足が課題となっていた。・次世代=管理職・チームリーダーに向けて組織スタイルを転換していく必要性が経営層で高まっていた。取り組み・40代中心の中堅層 =管理職・チームリーダー を対象に、全6回・約4カ月にて導入。「チームマネジメント力向上」を軸に、①問いのデザイン、②役割マネジメント、③ヘルプシーキング、④対話の学習テーマを全4カ月の連続プログラムとして設計。・単なる研修にとどまらず、上司層も報告会に参加し、受講者との“景色合わせ”を行うことで、現場との学びの共鳴を重視。・社員自身が「自分ごと化」して実践へ移せるよう、オリエンテーションやリフレクションも導入。結果とこれから・「景色合わせ」や「対話」といったキーワードが社内の共通言語として浸透し、1on1の増加やチームでの役割分担といった変化が生まれ始めた。・受講者の中から自主的に学びを職場に広げる活動が生まれ、研修の枠を超えた波及効果が見られた。・今後は、研修の成果の定着とともに会社のミッション・ビジョンとの接続を深め、組織の方向性とマネジメントスキルの両輪で推進していくことを目指す。目次実施の背景トップダウン型から、チームで成果を出す組織づくりへ---本日は、チームマネジメント力を強化し、次世代を担う人材育成に取り組まれた荒井商店様にお話を伺います。まずは、御社の事業や組織風土について教えていただけますか。石澤様: 当社は、セコムグループの不動産分野を担う会社として、賃貸や仲介事業を中心に、サービス付き高齢者向け住宅約150戸や有料老人ホームの11拠点の運営も手がけています。まもなく創業60年を迎える企業で、社員数は約50名ほどです。長野様:当社の特徴は「少人数」「プロフェッショナル」であることです。不動産やシニア事業、経理・法務など、それぞれの専門分野でしっかりと基礎を身につけ、プロとして仕事をしていくことを重視しています。また、組織が比較的フラットで、意思決定が速く、機動力があるのも特徴です。---採用サイトにも「少数精鋭」という言葉がありました。実際にオフィスでも皆さんが同じフロアで働かれており、横のつながりも強い印象を受けました。そんな中で、今回の研修を導入された背景について教えていただけますか。長野様:当社は社名から連想していただける通り、長年オーナー企業としてトップダウン型で意思決定が進む組織でした。ただ、二代目の社長と役員、さらに役員と社員の年齢が10〜15歳以上離れており、次第に人員構成が変わってきたのです。10年以上前から新卒採用を始め、今では20代~30代前半の人員が全体の約4分の1を占めるようになってきました。さらに、中途入社を含め社員のカルチャーが多様化する中で、昔からいる人間の「これはみんな分かっているはず」という暗黙の了解が通用しないということも明らかになってきました。---年齢やキャリア背景の幅が広がってきたことで、これまでのトップダウン型のスタイルだけでは対応しきれなくなってきたということでしょうか。長野様:そうですね。トップダウンの良さもありますが、今後は“チームで成果を上げる”スタイルが必要になってきたと感じています。にもかかわらず、これまでの組織ではリーダー層が管理職としての実践的な経験を積む機会が少なく、「人を動かす」「予算を使う」「スケジュールを管理する」といったマネジメント力の訓練が不足していたことは否めません。そこで、今回の研修は階層を意識した対象者設定を行い、40代を中心とした中堅のリーダークラスとしました。---外部要因というよりは、社内の人員構成の変化が、中堅リーダー層のマネジメントスキルやチーム力の強化の必要性を高めていったのですね。長野様:はい。外部からの指示で変化を求められたわけではありません。現社長がよく「ゆでガエルになってはいけない」と言う通り、時代や組織の変化に対して常に自覚的であるべきだと考えてのことです。研修への期待“自分ごと化”を促し、実務につながる学びを目指して---先ほど伺った課題を踏まえ、今回の研修ではどのような状態を目指していたのでしょうか。スタートの段階で、変化として期待いただいたイメージについて教えてください。篭原様: 個人としては皆、それぞれに完結して仕事ができていたと思います。ただ、今回はチームを意識してもらうことを期待しました。課長クラスの社員が采配をふるいながら、周囲を巻き込んで仕事を進めていけるようになってほしいと思いました。長野様: 今回の研修テーマは経営としても重要な課題で、かなり“重たい宿題”だと思っていたので、いろいろな会社が提供するコンサルティングや研修を調べました。様々な研修を見る中で、単なるお勉強だけで終わってしまうようなものでは意味がないと感じていました。社員が「これは自分たちのことだ」と自然に受け入れて、自覚を持って実行できるようなプロセスをつくれるかどうかがポイントでした。---個の力はもともと強い皆さんだからこそ、それをいかに“チームとして機能させるか”や、”自分ごと化・実行に昇華できるか”が、今回のポイントだったのですね。そうした中で今回、NOKIOOをパートナーとしてお選びいただいた決め手は何だったのでしょうか。長野様: NOKIOOのWebサイトを拝見し、取締役の小田木朝子さんが書かれたヘルプシーキングの入門書『仕事は自分ひとりでやらない』を購入して読んだところ、「これだ」と思いました。さらに詳しく話を聞くと、「問いのデザイン」や「対話」といった学習テーマもあって。特に「対話」は、単に言いたいことをぶつけ合うのではなく、まず相手の心の中にあるものをしっかり見てから、自分の意見を伝えるという姿勢が大事で、これは会社全体で深く理解したい内容だと感じました。また、メインの学習テーマだけでなく、オリエンテーションや学習リフレクションを取り入れたり、上司の現場での支援を促したりなど、学習動機付けや実践まで考えた全体の学習設計を伴走いただける点も魅力でした。---ありがとうございます。今回の取り組みで目指したい姿を伺いながら「チーム力強化」という大きな目的に向けて、「問いのデザイン」「役割マネジメント」「ヘルプシーキング」「対話」とあわせて約4カ月間、6回のプログラムとして構成させていただきました。研修後の変化・効果“景色合わせ”と“対話”を起点に、職場に自発的な変化の兆し---約4カ月間のプログラムを通じて、受講者や職場に見られた変化について、それぞれのご視点から印象に残っていることをお聞かせいただけますか。篭原様:「ヘルプシーキング」での学びから、話しかけやすい雰囲気を意識するようになったという声が受講者から出てきました。「負のオーラを出していたら若手は話しかけづらい」「こちらから歩み寄らないと、相手も聞いてこない」といった気づきがあったようです。また、よく出てくる言葉が「景色合わせ」です。相手が何を言いたいのかをしっかり受け止めたうえで、自分の主張を伝える。お互いの認識を揃えるという感覚が少しずつ浸透してきた印象があります。さらに嬉しいことに、受講者の中で特に意欲的な数人が中心となって、「研修の内容を職場内で陳腐化させず、周囲に広げていこう」と、自主的に“学びを共有する場”を立ち上げてくれました。期待以上の行動で驚きましたし、嬉しかったですね。---研修内容が単なる受講にとどまらず、現場での行動変化や仲間への広がりとして現れてきたのは、とても意義のある変化だと思います。石澤様:「相手の景色を見る」という言葉は、最近の中で一番のヒットワードですね。社員の間でもよく使われるようになりました。実際に見えているかは別ですが、意識されるようになったこと自体に価値があると思います。また、受講者が部下と1on1の時間をとるようになり、また横に座って話す機会も明らかに増えた実感があります。長野様:研修の初期には、「チームで仕事をする・成果を上げる」という考え方に対して、受講者の多くが「自分の仕事って、自分でやるもんじゃないの?」という反応で、ある意味カルチャーショックのような戸惑いがあったと思います。それが回を重ねるごとに徐々にほぐれていき、「これは皆で共有すべきことだよね」「役割分担しよう」といった目線が芽生えてきました。まだ「芽生え」の段階ではありますが、確実な変化です。ただ、この変化を定着させるには、“自覚”が必要です。気づかないうちに元に戻ってしまうこともあるので、終わってからこそ、継続と自覚の仕組みが大切だと感じました。---変化の芽が出てきた今だからこそ、それを途切れさせない仕組みや場の重要性も出てきますね。実践をする中で内に抱えがちな不安やモヤモヤも、声に出せる環境があれば、解決できなくても孤立を防げる。そんな土壌があるといいですね。上司・会社の受講者への関わり「任せきりにしない」――経営・上司層が一丸となって“育成の土壌”を耕す姿勢---今回、NOKIOOとして特に印象的だったのが、各研修の振り返り報告会に上司の皆様も積極的に参加くださっていた点です。こうした取り組みは珍しく、御社ならではの特徴だと感じました。意識されていた点があれば教えてください。石澤様:当社が今まさに転換点にあるという、経営としての大きな問題意識が背景にあります。これまで、役員層にはエグゼクティブコーチングを、新卒層にはキャリア自律の研修を行ってきました。そして「その間を支える中堅管理職をどう強化していくか」というのが、今回の研修導入の流れでした。その重要性を、経営から部長クラスに対しても明確に伝えていたので、現場の管理職たちも意識を高く持ってくれて、忙しいなかでも報告会に時間を割き、積極的に出てくれたのだと思います。篭原様:私たちも毎回報告会のあとに30分ほど残って「景色合わせ」を意識した対話を行っていました。経営層の認識がずれてしまっては、せっかく受講者が学んだことも混乱のもとですから。石澤様:「任せっぱなしにしない」というのが基本姿勢です。実は社長も報告会に何度か出席していました。それくらい会社全体でこの研修に取り組むという姿勢を持っていました。---受講者が熱意を持って戻ってきても、上司がその内容を知らずに孤立してしまうケースも見られます。そういう意味では、上司や会社側が学びを支える姿勢があることは、学びの定着にプラスの効果が出やすいと感じています。今後に向けて会社のビジョンと“チームで成果を生む力”をかけ合わせ、次なる成長へ---約4カ月間にわたるプログラムを通して、チームマネジメントの基本スキルとその実践を皆様とご一緒に進めてきました。今後に向けて、御社が視野に入れていることをお聞かせください。石澤様:今回の研修を通じて、「どういう意識で仕事をするのか」「チームをどう築くか」といった部分の土台が整ってきたと感じています。ただ、全社として“どこに向かっているのか”が不明確では、力を正しく発揮できません。この問題意識は、研修を始めた頃から社内で強くなっていきました。そこで、私が旗を振り役員メンバーで「荒井商店として何を大切にし、どこに向かうのか」を議論してきました。熱い議論の末、3月末の全体会議で会社のミッション・ビジョン・バリューとして発表することができ、社員からも「これだ」と手応えを感じる反応がありました。---“分かっていたつもり”のことを、きちんと言葉にして伝え合うことの意味が、ここでも実感としてあったのですね。長野様:はい。こうして、今期の期初には「組織としての方向性」と「リーダー層のマネジメントスキル」の両方が揃った状態になりました。これからは、その二つを軸にして組織を力強く前進させていきたいと考えています。具体的なテーマとして、ミッション・ビジョン・バリューの浸透や、事業活動を更なる実践の機会にできないか、次の取り組みに向けて一緒に検討いただいているところです。---今回の学びを、組織強化や事業推進につなげるための次の一歩を設計させていただきます。一年後の更なる変化を一緒に目指していきたいです。