失われつつある「学びの場」を取り戻すために働き方改革や業務の効率化が進む一方で、私たちの職場からは「何か」が失われているのではないでしょうか。会議の前後にあったちょっとした雑談、先輩からの暗黙知の継承、そして飲み会での本音トーク。これらが減少したことで、研修機会を増やしたり、学習支援制度を整えたりしても、現場での自然な学び合いや知識共有が定着しづらくなっているという悩みをよく耳にします。こうした課題感を背景に、NOKIOOではトークライブ「学ぶ組織は、どうすればつくれるのか?─ 学びを根づかせるマネジメント変革の進め方」を開催しました。ゲストには、組織行動論の専門家である株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆氏をお招きし、NOKIOO代表の小川、ファシリテーターの桐山と共に、深い対話を繰り広げました。当日は、チャットを使って参加者の皆様とリアルタイムに意見を交わしながら進行しました。冒頭の「あなたにとって『学び』とは?」という問いかけには、「インプットしたことを試してみること」「周囲との対話」「日々の何気ない気づき」など、非常に多様で熱量の高いコメントが寄せられ、双方向のコミュニケーションに溢れた活気あるイベントとしてスタートしました。核となるコンセプト:「まじめな雑談」本イベントの中心テーマは、学びを“個人任せ”にせず、組織の中に自然に生まれるものとして再設計することです。その鍵となる考え方が「まじめな雑談」です。「まじめな雑談」とは、業務に直結する報告でも、完全なプライベートのおしゃべりでもない、ある程度真剣味のある対話のことです。従来、学びは研修や資格取得といった「特別な機会」として捉えられがちでした。しかし、分業化や短期成果志向が進む現代の職場では、かつて存在していた非公式な学びの場が減少し、結果として人材育成の土壌が弱まっています。働き方改革や効率化の進展により、かつて存在した徒弟関係や、商談後の車中での会話、飲み会といった交流の場が減少し、結果として「骨太人材が育たない組織」という構造的な問題が起きています。 この失われた「学びと気づきの場」を意図的にデザインし直すことが、今の組織に求められています。学ぶ組織におけるマネジメントの再定義セッションでは、まず「学ぶ組織におけるマネジメントのあり方」が議論されました。伊達氏は、マネジメントを特定の役職の役割としてではなく、「場を整える機能」として捉える重要性を指摘します。「マネジメントというと、タスクを割り当てて評価をするといった管理を想起しがちですが、その世界観では学ぶ組織づくりとは相性が良くありません。重要なのは、お互いの共通理解を促す働きかけや、調整役を買って出ることです」と伊達氏は述べます。つまり、マネージャーが一人で教え、管理するのではなく、学習が自然発生するような場や環境を外部から設計することが求められるのです。 チャットでも「毎週の一方通行の報告会をやめて、まじめな雑談会にしたい」といった声が上がり、学びを生み出す場づくりへの関心の高さがうかがえました。日常に学びを埋め込む「まじめな雑談」の設計続いて、具体的な環境デザインの方法として、NOKIOOが10年以上続けている「社内勉強会」の事例を紹介しました。これは、2週間に1回、業務時間中の30分を使って行う「まじめな雑談」の場です。「アイヌの文化と近代史」や「ヒップホップから考える多様性」など、一見業務とは無関係に見えるテーマを社員自身が持ち寄り、対話を通して思考を深めていきます。 最初から難しい議論をするわけではありません。たとえば「アイヌの文化」の回は、「漫画に影響されて北海道旅行へ行った」というゆるい雑談から始まりました。そこから「歴史上の同化政策は、今の私たちが直面しているダイバーシティの課題と同じではないか?」という本質的な問いへとステップアップし、全員でワイワイと思考を深めていったのです。小川は、「学びの場を非日常のイベントにするのではなく、極力日常に埋め込むことが大切です。数ヶ月に一度の大きなイベントにしてしまうと、評価を気にして着飾ってしまいがち。日常の仕組みとして定期的に開催し、自然と集まる状態をつくることで、学びがカルチャーとして定着していきます」と語りました。また、テーマを社員からの投票式にすることで、「選ばれない理由を考えることも学びになる」といった、予定調和ではない副産物も生まれました。教える人と学ぶ人の役割を固定化せず、「ギブ&テイク」の関係性を築くことが、自発的な学びを引き出す鍵となります。失敗が許容される環境と、学びの中で育つ役割意識セッションの後半では、参加者とのディスカッションを通してさらに深い気づきが生まれました。 参加者からの「会社である以上、評価はつきものでは?」という鋭い問いに対し、伊達氏は「人は自分への評価が下がることを懸念するからこそ、失敗を恐れます。だからこそ、失敗をすることが評価されるくらいの勢いで、環境をデザインすることが必要です」と力強く応じました。専門的には「評価懸念」と呼ばれるこの心理的ハードルを下げ、小さな失敗が許容される安全な場をつくることが、深い学びを促進します。 さらに伊達氏は、「学びの場に参加すること自体が、マネジメントの一部を担う経験になります」と語りました。場を進行する、問いを投げかける、意見を調整するといった関わりを通じて、参加者一人ひとりが組織を前に進める役割を少しずつ担っていく。こうした経験の積み重ねが、学びを個人のものにとどめず、チームの成果へとつなげていきます。参加者からは「個の成長とチームの共働機能は相乗効果を持っていると再認識できた」という感想が寄せられ、学びのゴールが「個人の成長」から「チームの成果創出」へと切り替わる瞬間を共有することができました。学びを組織の力に変えるためにイベントの締めくくりとして、小川は「個人の学習支援にとどまらず、チームで学び、成果につなげるための場づくりが重要になる」と語り、こうした学びの場づくりをどのように実践していくかについても紹介しました。NOKIOOでは、こうした学びのカルチャーを組織に浸透させるためのラーニングコミュニティ運営支援サービス「ManabiBase(マナビベース)」を展開しています。社内ラーニングコミュニティを起点に、対話的なコミュニケーションを通じて「組織の関係性の質」と「個人の社会人基礎力」を育む取り組みです。伊達氏も「学びの場をつくることで、知識だけでなく、信頼関係や共通言語といった素晴らしい副産物が生まれます」と語り、あっという間の1時間の濃密なトークライブは幕を閉じました。あなたの職場に、どんな学びの場をつくりますか?効率化の波に押され、少しずつ失われてしまった職場の余白。しかし、その余白にこそ、組織を強くする学びの種が隠されています。あなたは明日から、チームの中にどのような「まじめな雑談」の場をデザインしますか?この問いが、皆様の組織に新しい学びのカルチャーを生み出すきっかけとなれば幸いです。