研修で理解しても、現場で実践が続かないのはなぜか「研修直後のアンケートでは満足度が高く、受講者も意欲を示していた。それでも、数か月後に現場を見ると、行動は思うように変わっていない」人事・人材育成担当者の皆様のなかには、このような状況に心当たりがある方もいるのではないでしょうか。研修を終えて職場に戻れば、日々の業務や会議、急な対応が待っています。目の前の仕事に追われるなかで、研修で立てたアクションプランの優先度が下がり、以前の行動パターンに戻ってしまうこともあります。これは、受講者のモチベーションや当事者意識だけで説明できる問題ではありません。研修で学んだ内容を実際の業務で行動に移し、その経験を見直して、次に取り組むことを決める仕組みがなければ、継続することは難しくなります。2026年8月5日、NOKIOOは、法人向けコーチングサービスを展開する株式会社HQの駒井亮氏をゲストに迎え、「『わかる研修』から『できるトレーニング』へ。行動変容を生む3つのポイント」をテーマに、トークライブを開催しました。ファシリテーターは、NOKIOOの成瀬岳人が務めました。冒頭、参加者の皆様にチャットで「今日の関心事項」を伺ったところ、多くの方が「行動変容をどう起こすか」を選びました。研修後の実践をどのように支えるかに関心が集まるなか、トークライブが始まりました。マネジメントは、知識だけでは身につかない実践的なスキル今回のトークライブで中心となったのが、「研修という点から、トレーニングという線・反復へ」という考え方です。一度の研修で、知識や考え方を理解することはできます。しかし、理解したことを実際の行動に移せるようになるには、日々の業務のなかで試し、振り返り、修正していく過程が必要です。駒井氏は、この関係を自転車の乗り方に例えました。「どれほど『自転車の乗り方』の本を読み、頭で理解したとしても、実際にサドルにまたがり、何度も練習しなければ乗れるようにはなりません」マネジメントも、自転車やスポーツと同じように、実践を重ねながら身につけていくスキルです。一度やり方を教わっただけで、本番ですぐに実践できるとは限りません。それでも職場では、研修を受けた直後から、目に見える成果を求めてしまうことがあります。「理解した」状態から「実践できる」状態へ移るには、一定の試行錯誤が必要だという前提を、育成する側も持っておく必要があります。「できるトレーニング」を支える3つのポイントでは、日常の業務に、マネジメントを練習する過程をどのように組み込めばよいのでしょうか。トークライブでは、研修を「起点」と位置づけ、その後に次の3つを組み込む設計が紹介されました。職場やコミュニティで実践し、他者と振り返る上司や仲間、専門コーチなどの支援を受ける行動や変化を記録し、本人が上達を確認できるようにする職場やコミュニティに、試して振り返る機会をつくる最初のポイントは、実務のなかに、意識的に新しい行動を試す機会をつくることです。日々の業務を、失敗を避けなければならない本番として捉えると、どうしても慣れたやり方を選びがちです。一方、1on1やミーティング、メンバーへの権限委譲などを、新しい関わり方を試す機会として捉えれば、実践を積み重ねることができます。この考え方に対して、チャットでは「実務で結果を残すのではなく『練習する』というのが引っ掛かりました」というコメントがありました。成瀬もこの言葉を取り上げ、「実務=結果を出す本番」と捉えることが当たり前になっていないか、と話題を広げました。ここで重要になるのが、上司の関わりです。新しいマネジメントの方法を試す過程では、一時的に成果が出なかったり、思うように進まなかったりすることもあります。上司がこうした試行錯誤を認め、すぐに成果を求めすぎず、新しいやり方を試す余地をつくることで、実践を続けやすくなります。利害関係のない伴走者と振り返る2つ目のポイントは、実践した内容を客観的に振り返り、次に試すことを整理するための支援者を置くことです。実務の最中には、自分のコミュニケーションの癖や、そのときの判断を落ち着いて振り返ることが難しくなります。駒井氏はこれを、テニスで一度コートを離れ、コーチと試合を振り返る時間に例えました。「一度コートの外に出て、ベンチに戻り、コーチと一緒にコートを外から眺めてみる。この時間が、自分自身のプレイを冷静に見つめ直す機会になります」振り返りを支える相手には、上司や同じ立場の仲間、外部の専門コーチなど、複数の選択肢があります。なかでも、評価権限や直接の利害関係を持たない第三者との対話には、迷いや課題を率直に言葉にしやすいという特徴があります。直属の上司との対話では、評価を意識するあまり、迷いや課題を話しにくくなる場合があります。外部のプロコーチなど、評価から離れた相手との対話であれば、これまでの経験を整理し、別の見方や選択肢を検討しやすくなります。また、上司や仲間、専門コーチと「次回までに試すこと」を確認しておくことが、日々の業務のなかで行動の優先度を保つ支えになる場合もあります。一人で抱え込まず、定期的に経験を見直せる関係をつくることが、行動の継続にもつながります。データを、本人が変化を実感するために活用する3つ目のポイントは、実践の記録やデータを活用し、自分自身の変化を確認できるようにすることです。新しい行動を続けていても、その変化は本人には見えにくいものです。小さな変化を振り返り、「以前よりできるようになった」と実感できることが、次の実践を続ける力になります。トークライブでは、データを管理や評価のためだけに使うのではなく、本人が自分の変化を確認できるようフィードバックし、成長実感につなげることの大切さが語られました。今後は生成AIなどを活用し、対話や振り返りの内容から、これまで捉えにくかった変化を可視化できる可能性もあります。また、こうした記録は、育成施策の成果を組織として振り返る際にも活用できます。数値だけでなく、管理職本人にどのような行動変化が起きたのかという具体的な事例も合わせて捉えることで、次の育成施策を考える材料になります。参加者との対話から見えてきた、実践を支える視点こうした議論に対して、リアルタイムのチャットでは、研修後の行動や育成のあり方についてさまざまな意見や気づきが共有されました。研修後の成果の求め方については、「確かに研修を受けたらアウトプットを求められている気がします。故に自分も求めてしまっていると気づかされました。根気強くトレーニングを積むプロセスも大事ですね」というコメントがありました。また、伴走についての話題では、「関係性をうまく使うというのは、確かに抜けてたなと感じました。そういう意味では伴走者を選ぶという視点も大事なのかなと思いました」という声も上がりました。参加者との対話からも、研修後の成果を急ぐのではなく、実践を重ねる時間や、それを支える関係性まで含めて育成を考える視点が共有されました。研修を「起点」に、その後の実践まで設計する研修は、行動変容のゴールではなく、その後の実践を始める起点です。研修で「わかった」ことを「できる」状態へ変えていくには、現場で試し、他者と振り返り、変化を確認する過程が必要です。自社の管理職育成において、研修後にどのような行動を試すのか、その実践を誰が支え、どのように振り返るのか。まずは、研修を実施して終わりにするのではなく、その後のプロセスをどこまで設計できているかを確認することが、育成を見直す一歩になります。